『そっと背中を押してくれる(仮)』⑨
- 2021.02.17
- 小説
11月の第2土曜日。
梨沙子と健二が一緒に生活し始めて、2ヶ月が経とうとしていた。
今日は、健二は大学時代からの友人と飲みに行くということで夕方から出かけている。
梨沙子は久しぶりの一人での時間に退屈していた。
特に料理をする気にもなれなかったので、近所のお弁当屋さんで買ってきた弁当で夕食を済ます。
リビングで一人、テレビを見ながら食べた弁当は味気なかった。
こんなことなら前から気になっていた近所のとんかつ屋にでも行けばよかった。
まだ、19時。
健二は23時くらいには帰ってくると言っていた。
こんな時こそ、読みたかった本を読むなど時間を有効活用すればいいのに特にやる気が起きない。
外に出たい気分だったので、近所のレンタルビデオ屋に行って映画を借りに行って、帰りにコンビニに行ってアイスを買って帰ってきた。
映画も見終わって22時。お風呂に入ることにする。ちょっと高めの入浴剤を入れる。
そういえば健二とはじめて寝た夜、髪の匂いを褒めてくれたことを思い出す。
今日は入念にトリートメントをして、お風呂から出たらボディクリームを塗って健二のことを待とう。
23時過ぎ、健二が帰宅した。
「おかえり。お風呂入れてあるよ」
「ありがとう。じゃあ、早速入ってくるね」
*****
「あれ、まだ起きてたの?」
「あ、うん。テレビ見てた。なんか飲む?」
「そうなんだ。ううん、大丈夫。ごめん、今日はもう疲れたから先に寝るね」
「あー、、、うん。おやすみ」
健二が自室に入って行った後、梨沙子は、ビールを1本空ける。
一緒に食べようと思ったケーキは冷蔵庫に残ったままだ。
*****
今週、健二は月曜から水曜まで残業、木曜は職場の飲み会だった。
梨沙子が金曜高校時代の友人と飲みに行っていたため、今週いっぱいずっとすれ違っていた。
1日の終わりに話したいことがある、聞いて欲しいことがる。
梨沙子にとって”あ、やっぱり健二と一緒にいると安心する”っていうことに気づいた1週間だった。
土曜日、健二と梨沙子は一緒に買い物に行った後に、久々に映画を観に行った。
夕食は近所の焼き鳥屋。
久しぶりの楽しい時間だけど、ふと思う。この2人の時間には期間があることを。
先週の土曜日は私たちはセックスをしていない。最後にしたのは先々週の土曜日。
今までだったら、土曜日の夜にしなかった日は、翌日の日曜日にすることもあった。
住み始めの頃、一緒にリビングのソファでテレビを観ながら気づいたら盛り上がっていることもあった。
”最後にしたのはいつだとか。あー、私は何て面倒くさいんだろう”
そして、次するのはいつ?このままセックスをしなかったら私たちが一緒にいる意味は?
この人は何を考えているんだろう?そんな疑問が次から次へと湧いてくると、健二のことがわからなくなってくる。
家に帰ってきて、少し飲み直す。
健二は今週の残業の疲れが残っていたようで、眠くなってきたと言う。
「ねぇ、健二は子どもつくる気あるの?」
言っちゃいけないと分かってても、後悔とすると分かってても突き進んでしまう梨沙子の悪い癖。
一度口から出た言葉はもう引き返せない。
(続く)
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