『そっと背中を押してくれる(仮)』①⑨
- 2022.02.16
- 小説
あまりにも予想していなかった人物の登場に私の心は動揺していた。
咄嗟にホームの自動販売機の後ろに隠れた。
そこにいた男性は数時間前まで顔を合わせていた健二だった。
そして隣には少しお腹が大きくなってるように見えた女性。
胸に手を当てて、ゆっくりと深呼吸をする。
その時、ちょうど来た反対車線の電車に咄嗟に飛び乗った。
車内、窓に打ちつける雨足がだんだんと強くなってきたのを感じる。
窓の外を眺めながら、動揺する心とは対照的に頭の中には冷静な自分がいた。
健二の隣にいた女性、綺麗な人だったなと思い出せるくらい落ち着いてきた。
健二が子どもを望んでいたこと、そのために私たちが今一緒にいること、そして私たちはその目的を果たせていないこと。
約束を忘れたわけではなかったが、当たり前のようにある健二との日常にどこか安心しきっていたのかもしれない。
私との間に子どもが出来なかったら健二は次の相手を探すという簡単なことも想像できていなかった。
現実を目の当たりにして、私は受け止めきれない状況を理解しようとしていた。
どのくらい電車に揺られていただろうか。そこからのことはあまり覚えていなかった。
気づいたらずぶ濡れになった私は、自宅のベットの上で大粒の涙を流していた。
(続く)
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