『そっと背中を押してくれる(仮)』④
- 2020.11.17
- 小説
知人にもらった美術展のチケットがあるということで、よかったらどうですか?と誘われた。
知り合って数分の男性にこんな誘われた方をしたのは初めてだったけど、
不思議と嫌な気がしなかった。
そこから私たちは、上野の美術館に向かった。
移動の最中、お互いに自己紹介をする中で
身長の高い彼は、名前は橋本健二、年は3つ上で、旅行系雑誌の出版社に勤めているということを知った。
さらに趣味の話になり、お互いに旅行やグルメ、映画が好きなことがわかり話が弾んだ。
ここ数年、職場と自宅の往復、年に数回会う学生時代の友人や家族だけの人としか関わりがなかったので
久々に出会った同世代の男性との会話がとても新鮮で心地が良かった。
美術館も一通り回り終わった後、
今度は勇気を振り絞って私から誘ってみた。
以前から気になっていたチーズケーキの店がこの近くにあったが
なかなか一人で行く勇気がなく、これはいいチャンスだと思った。
「甘いものはお好きですか?」
「大好物です!」
日曜日の午後2時半、人気店ということもあり店頭に少し列ができていた。
「混んでいますね」
「すみません、付き合わせてしまって。お時間大丈夫ですか?」
「家に帰っても海外ドラマ観るくらいしかやることないですからね」
気遣いのできる人なんだろうなと思った。
恋人はいるのだろうか。
スイーツ店に並ぶ私たちは、周りから見ればどう見えているのだろうか。
そんなことを考えていたら、店内に案内された。
その日私たちは連絡先交換をするとともに、
今度は彼が気になっているスペイン料理に行くという約束をしてお別れをした。
心もお腹も満たされた気分だった。
梨沙子は帰りにレンタルビデオ店に寄って、お気に入りのワインを買って帰ることにした。
続く。
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