『そっと背中を押してくれる(仮)』①②
- 2021.05.02
- 小説
温泉旅行から2日後、大事な話があると健二から呼び出された。
健二の様子から緊張が伝わってきた。
そこで健二からゆっくりと言葉を選びながらこんな話をされた。
「子どもをつくることを前提に一緒に暮らさないか」と。
結婚を前提に付き合おというのはよく聞くが、まさかその先の子どもをつくることを前提に一緒に暮らそうなんて言われるとは思わなかった。
そして、健二はこう続けた。
「結婚したら、いずれは子どもも育てたいと思っている。でも、必ずしも夫婦の間に子どもができるとは限らない。だから、子どもをつくることを前提に一緒に暮らしたい」
確かに最近では、結婚した夫婦になかなか子どもができなくて大変な思いをしているニュースもよく聞く。
さらに、健二はこう続けた。
「1年間、一緒に暮らす中で僕たちの間に子どもができたら結婚しよう。もしできなかったら、その時はお別れしよう」
子どもができなかったらお別れ?
確かに子どもをもつことを前提とするなら、目的を果たせなかったらお別れするのは当然なのかもしれない。
夫婦の間に子どもができるまでどのくらいかかるのか、いろいろな問題とタイミングがあると思う。
その期間が1年というのが妥当かどうかは分からない。
梨沙子自身もここ数年は自分の将来のことから目を背けていたが、それでもいずれ結婚して、子どもを産み育てる可能性については漠然と考えていた。
「僕は冷たい人間なんだと思う。もしこんな話をされて幻滅したらな今すぐ別れよう」と健二は言った。
梨沙子には正直に思いを伝える健二のこと冷たい人だとは思えなかった。
そして、梨沙子も健二と一緒だと思った。
1週間時間をもらって考えた末、梨沙子と健二は一緒に暮らし始めることにした。
1年という期間付きで。
(続く)
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