『そっと背中を押してくれる(仮)』⑧
- 2021.02.03
- 小説
一緒に暮らし始めて1カ月が経った。
3LDKのマンション。
朝はそれぞれの時間に起きて、各自準備して出勤する。
夜は帰りの早い健二が夕飯の準備を準備をしてくれている。
その代わり、梨沙子が洗い物や洗濯などを担当している。
夕食後は、一緒にリビングでテレビや映画を観て過ごし、
お互いそれぞれのタイミングで別々の寝室に行く。
私たちはすごく相性がいいと思う。
食の好みや好きなテレビ番組。
料理が得意な健二、掃除や片付けが得意な梨沙子。
お互いが得意なことを分担して、相手のやり方にも特に不満もないし、口出しもしない。
梨沙子自身、人といると気を遣う方であり、一人の生活に慣れてきたここ数年の間に、他人と一緒に生活するて無理なんじゃないかと感じていた。
健二とはちょうどいい距離感のまま居心地のいい生活を送れている。
彼の優しさや落ち着いた雰囲気が私には合っていたんだと思う。
私たちは、土曜の夜にセックスをする。
身体の相性も悪くないと思う。何より肌が合う。温度、ぬくもりが心地良い。
私たちには、いや私は健二に見えない心の壁を感じていた。
生活や趣味が合って、一緒に生活しててもわからない健二のことを
身体を重ねることで感じてきた。
「気持ちよかった」と健二が言う。
そんな時、私で良かったのかな?っていう気持ちを払拭するように
私は求められてると感じることができた。
その言葉には嘘はないと思ったからだ。
この不思議な関係についていろいろ考えて、モヤモヤした気持ちが
健二に抱かれてる時だけは晴れた。
梨沙子は自分自身のことを単純だと思った。
(続く)
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