『そっと背中を押してくれる(仮)』①④
- 2021.06.06
- 小説
あの夜以降、梨沙子と健二の関係は少しずつ変わっていった。
今までより会話をするようになった。
たくさん連絡を取り合うようになった。
平日、仕事が早く終わる健二が梨沙子を駅まで迎えに行くようになった。
スーパーで買い物をして帰る。
スーパーでどっちのアイスを買おうか悩んでる梨沙子に、
「両方買いな。半分個して一緒に食べよう!」と健二が言う。
金曜日は、駅に迎えに来てくれた健二と一緒に飲み屋に行って
帰りは公園に寄り道する。
そんな時間が梨沙子にはすごく楽しく、幸せな時間だった。
ある晩、毎週楽しみにしている今話題の恋愛ドラマを2人で観ている時に健二がこんなことを話してくれた。
「今まで恋愛ドラマってあんまり観たことなかったんだよね。」
「そうだったんだ。」
「うん、なんかまどろっこしく感じちゃって。早くくっついちゃえばいいのになんて思って。いつも刑事ものとかミステリーとかばっかり観てた。
今まですぐに結果を求めるところがあったから。梨沙子と過ごすようになって、過程を楽しむことの大切さみたいなのに気づけたんだと思う。
梨沙子、毎日日記書いてるでしょ?」
「え、知ってたの?」
「うん。毎日日記書いたりヨガやってたり、そういうところいいなって思ってたよ。
梨沙子、前は登山にもよく行ってたんでしょ?今度、一緒に行こうよ」
「そうだね。楽しみ。私も健二と過ごすようになって変わったことがあるの。」
「おぉ、聞かせて」
「日曜日が怖く無くなったの。今まで日曜日になると、いつも不安と焦りを感じてたの。私ってこう見えてせっかちじゃない。いつも何かやらなきゃって休みの日まで早起きしてたの。健二と過ごすようになって、今では休みの日にお昼まで寝ちゃった日でも焦らなくなったの。そんなに焦らなくても大丈夫だって思えるようになった。」
「それは良かった」
そう、今まで梨沙子はつねに最短距離で、周りから遅れないようにしていた。人生は寄り道したっていい。健二と一緒にいることでそう思えるようになった。
退屈に感じてた駅からの帰り道も同じペースで歩める人が横にいてくれて、何かに迷った時は背中を押してくれる。
梨沙子にとって、健二の存在はどんどん大きくなっていった。
(続く)
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