『そっと背中を押してくれる(仮)』①⑤

『そっと背中を押してくれる(仮)』①⑤

気づいたら梨沙子と健二が一緒に暮らし始めて半年が経とうとしていた。

普通の恋人同士のような何気ない、充実した毎日を過ごしていた。

                                                                        

「実は母親が入院することになったんだ」

ある日の夕食時に健二から話があった。

「え、そうなの?大丈夫?」

「スーパーの駐車場で車との事故だったみたいなんだけど、腰を痛めたのと足を骨折した以外は特に問題なかったみたい。久しぶりに様子を見に今週末会いに行ってこようと思う。」

「そうだったんだ。分かった。」

何気ないいつもの会話の中で健二から家族のことを話してもらえる。

信頼されてるようで嬉しかった。

一緒にいることが当たり前のように感じてきてはいたけど、ふと約束のことを思い出す時がある。

そう、私たちは友達でも恋人でも夫婦でもない。

健二が悲しみに包まれた時、私は寄り添っていいのだろうか。もし健二に何かあった時、私は健二にとって何者でもない。

梨沙子はそんなことを感じてると同時に健二と過ごすようになって思うようになったことがある。

今が大事なんじゃないかと。

梨沙子は今まで将来のことばかり考えて、いつも不安になっていた。

そして、”こうでなくちゃいけない”という形にとらわれ過ぎていた。

結婚とは?夫婦とは?

確かに私たちの間には1年という期限がある。

でも、私も健二も明日事故に遭うかもしれない。

もし、余命一年を宣告されたら?当たり前のように変わらない日常が保障されているわけではない。

そう考えるようになって、今を後悔しないように、健二との時間を大切にしたいと思うようになった。

                                                                        

(続く)