『そっと背中を押してくれる(仮)』①⑥

『そっと背中を押してくれる(仮)』①⑥

土曜日、梨沙子は高校時代の友人たちとランチに来ていた。

定期的に集まる仲で、こうやって4人で集まるのは1年ぶりくらいになる。

「うちは旦那は家事もやってくれるし、今日みたいに土日も子ども達と遊んでてくれるからすごい感謝してるんだけど、子育てについてはいつもすっごい揉めてるよ。結局いつも子どものこと怒ってるのは私で、怖いママと優しいパパ。おまけに最近は旦那の両親までいろいろ口出ししてきそうで本当嫌になっちゃう。」

そう話す理沙は、大学卒業後に入社した会社の同期と26歳の時に結婚後、5年前に退職して現在は専業主婦である。

女の子と男の子、2人の子育てに奮闘中。

「そういう舞こそたかしさんとはどうなの?」

舞は昨年、結婚したばかりの新婚だ。

「うーん、たかしくん全然家事なんてやってくれないし、休みの日私が一緒に買い物に行きたいって思ってても1人でゴルフ行っちゃったりするし、たまに料理するなんて言い出したと思ったら、これいくらするの?っていうお肉買ってきたりするよ。私はなるべく早く子ども欲しいと思ってるのに、全然積極的じゃないし、将来のことどう思ってるのか全然分からない。」

「話聞いてると、結婚してる2人があんまり幸せそうじゃないね。私はますます結婚が遠のきそう。」と友子が言う。友子は外資系の製薬会社に勤めており、忙しい仕事の合間に休みを取っては海外旅行をしている。

「そんなことないよ。結婚しても子育てしてても大変なこともたくさんあるけど、子ども達はかわいいし、悩みの数だけ幸せなこともあるよ。」

早く結婚した方がいいよとか、独身はいいねとかそんなことを言わない友人たちがありがたい。

人生にはたくさんの選択肢があって、どんな選択をしても悩みはつきもので、悩みと向き合わないと人生は楽しくならない。友人たちの話を聞いていて、梨沙子はそんなことを考えていた。

「梨沙子は最近どう?」

「私は特に変わってないよ。」

「そうなんだ。今度、梨沙子の部屋に遊びに行かなとね。」

以前4人で集まった時に、最近料理やお酒に凝り始めた話をしてから時が止まっている。

健二の話はしていない。

梨沙子は心の中で”ごめん”とつぶやいた。

友人たちと別れて帰宅後、梨沙子は何気なくテレビをつけた。

テレビでは”不妊治療”の特集をしていた。

なんてタイムリーな話題だろう。

健二には3歳上の兄がいる。

健二の兄は結婚して数年後、夫婦で子どもを望んでいたため30歳後半に差し掛かるタイミングで不妊治療に取り掛かったが、子どもには恵まれず、現在は2人で楽しく暮らしていると言っていた。

精神的、肉体的、金銭的負担、たくさんの負担がかかる不妊治療。健二のお兄さんやテレビに映る夫婦がどんな思いで不妊治療に取り組んでいたのだろうか。

梨沙子にはその思いを想像することしかできなかった。

ただ、テレビに映る夫婦を見て、自分の人生に向き合って、前を向いて生きている、そんなことを梨沙子は感じていた。

梨沙子は少し前から考えていた思いがあり、それを行動に移す決心をした。

(続く)